サーキュラーエコノミーにおけるモジュラーデザインの役割

2020/2/10

 近年、CO2増加による温暖化、世界人口の急増による地球資源の枯渇化など、地球環境における問題がクローズアップされています。今回のコラムでは、これらの問題解決の一つの手段であるサーキュラーエコノミー(循環型経済)におけるモジュラーデザインの役割について考えてみたいと思います。

1.現状の製品ライフサイクルの問題点

 現状の製品ライフサイクルは、一部の製品での資源循環などは行われているものの、ほとんどの製品が、設計→購買→製造→販売→使用→廃棄の一方通行の流れになっています。この流れには、資源、製品のライフサイクル価値、キャパシティ、潜在価値などの4つの“無駄”があると言われています。 資源の“無駄”とは、資源が継続的に再生できず消費され、使用後は永久に消滅する原材料やエネルギーのことで、製品のライフサイクル価値の“無駄”とは、人為的に使用期限が短縮される、あるいは他者のニーズがあるにもかかわらず廃棄される製品です。また、キャパシティの“無駄”とは、未使用の状態で不必要に放置される製品性能(車は10%しか寿命を使っていないなど)で、潜在価値の“無駄”とは、廃棄製品から回収・再利用されない部品、原材料、エネルギーなどを言います。つまりこれらの無駄をなくすことが、サーキュラーエコノミーの実現に繫がります。

2.サーキュラーエコノミー成功への5つのビジネスモデル

図1:サーキュラーエコノミー成功への5つのビジネスモデル|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図1.製品モデルの説明

4つの無駄を解消するためにサーキュラーエコノミーでは、「再利用」「再販売」「素材再生」「資源循環」の4つの循環を目的とした、以下の5つのビジネスモデルを提唱しています。

  1.  1.サーキュラー型のサプライチェーン
      → 再生可能資源による原材料やリサイクル材の使用を前提とした事業推進
  2.  2.回収とリサイクル
      → 中間廃棄物、副産物、製品廃棄物の再利用、再生転用
  3.  3.製品寿命の延長
      → 寿命を残した廃棄製品の修理、アップグレード、再製造、再販により
        新たな価値を 付与する製品寿命の延長
  4.  4.シェアリングプラットフォーム
      → 長寿命製品を、所有者のみならず多くの顧客が共同利用するしくみの構築
  5.  5.サービスとしての製品
      
    → 顧客に製品の所有権ではなく利用機会、利用時間を供給

 これら5つのビジネスモデル実現には、1.4.5のような資源を好循環させるしくみと、2.3のようにしくみの循環を考慮した製品設計が求められています。これらの実現にあたっては“製品を可能な限り長く利用する”ことと“潜在価値を最大限に利用する”ことが重要です。特に、製品設計においては具体的に以下の項目がポイントとなります。

図2.循環を考慮した設計のポイント|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図2. 循環を考慮した設計のポイント


 ここで、循環を考慮した設計のポイントについて、モジュラーデザインの果たすべき役割について考えてみたいと思います。

1:機能完結型モジュラーデザイン

図3.従来型設計から機能完結型モジュラーデザイン|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図3. 従来型設計から機能完結型モジュラーデザイン

 図3は製品構造を、製品機能階層と製品構造階層の関係で表しています。上図の従来型設計では、製品機能(左半分)と製品構造(右半分)それぞれの構成要素が互いに多対多で絡み合っているため、たとえば大モジュールS1はS2と関係し、S1の小モジュールs1は機能面のf1とf2、構造面ではs2とも相互依存の関係にあります。このように従来型設計では、製品を構成している機能と構造の要素がお互いに影響し合っていて、製品に求められる機能や性能などの品質を実現するために、それぞれの構成要素の関係を相互に微調整して設計していく必要があります。 これに対し、下図の機能完結型モジュラーデザインでは、小モジュールs1とf1の関係は1対1であり、構造面ではS1とS2やs1とs2との相互依存性はなく、各機能・構造に対し独立型になっています。このように独立型にすることで、ユニット・部品の交換、修理、改修、再生産、リサイクルが容易になり、モジュール化された製品が不具合をこした場合、不具合を起こしたユニット・部品のみを交換・修理をすることで、ユーザーの製品の所有期間を延ばし、さらに製品ライフサイクル全体の寿命を延ばすことが可能となります。 また、新製品には、世の中にない全く新しい性能や機能をもつものもありますが、ほとんどの場合、既存の性能や機能をアップグレードすることが多いものです。したがって機能完結型モジュラーデザインにより、アップグレードの部分のみの交換や、あらたな特徴や機能を物理的に付加することで、製品寿命を延ばすことも可能になります。

2:使用機能はモジュール化、感性機能はカスタマイズ

図4.使用機能と感性機能の役割|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図4. 使用機能と感性機能の役割

 メーカーでは消費財、生産財といった様々な製品を作り、これらの製品機能は大きく使用機能と感性機能の2つの機能で構成されています。使用機能とは製品の使用目的にかかわる機能をいい、多くの場合その製品の基本機能になります。また感性機能とは製品の色彩や形などの特徴からくる機能で、使用者に製品を得ることの満足や感覚的な満足を与えるための機能を言います。 たとえばスパナやレンチなどの工具類は、組立・分解作業の目的にのみ使用するもので、見栄えなどの感性機能はほとんど必要なく使用機能のウェイトが高くなります。それに対し、女性が身につける装飾品のネックレスは、自分自身を引き立たせるための目的が主になり、感性機能のウェイトが高くなります。乗用車に例えると使用機能とは“走る”“止まる”“曲がる”であり、感性機能とは“デザイン”“乗り心地”です。機能のウェイトは製品によって異なり、使用機能のウェイトの高いものから、感性機能のウェイトの高いものまでさまざまです。  一般的に使用機能は顧客があまり目に触れない部分が多く、メーカーサイドの設計の自由度が高くなるため、メーカーが主導で行うモジュラーデザイン対象の部位になります。一方、感性機能は外観のデザイン性に関わる顧客の目に触れる部分で、設計の自由度は低くなりカスタマイズ(個別設計)が必要な部位になります。

3:部品種類を削減し無駄のない製品構成の追求

モジュラーデザインは、あらかじめ顧客ニーズに対応したモジュラー部品を準備しておき、モジュラー部品を組み合わせて多様な製品を設計する、事前の一括的かつ計画的な設計です。これにより、無駄なモジュラー部品種類数が抑制され、地球資源の無駄排除に貢献します。 また、モジュラーデザインでは、“製品の基本性能と外形寸法”、それを実現する“コア部品の仕様寸法”、コア部品を作る“製造設備の仕様”にモジュール数(標準数)を連動して適用することを推奨しています。モジュール数の適用により、製品仕様、ユニット、部品の種類の無駄を抑制することができます。具体的にモジュール数を適用するには、次のレンジ化と系列化を整理して進めることが重要です。

 ・レンジ化: 製品・ユニット・部品がカバーする性能の範囲(レンジ)の
       MINからMAXを考えこれらの種類、寸法を抑えること。
 ・系列化 : 製品・ユニット・部品に要求される性能、機能、寸法などを整理し
      一定の規則性を持たせること。変動のさせ方を数列に乗せ、性能
      寸法の等比化、等差比の検討を行うこと。

図5.モジュール化による使用機能の固定・規則領域の拡大|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図5. モジュール化による使用機能の固定・規則領域の拡大

 図5はある製品ラインアップにおけるモジュール化前とモジュール化後の、製品体系のイメージ図です。モジュラーデザインで最初に行うことは、“② 使用機能はモジュール化、感性機能はカスタマイズ”で述べたように、製品機能を使用機能のモジュール化領域と感性機能のカスタマイズ領域に区分することです。 現状の固定領域とは、現在すでにユニットや部品が固定化されている領域を示しています。これらの領域を機能と構造の関係を分析し、ユニット・部品について機能集約化・共通化・統一化を適用しながら、さらに固定化領域を拡大していきます。  準固定領域とは、固定化できないがモジュール数などの適用で一定の基準をもとに設計することを言います。たとえば、製品仕様はレンジを決定する際にモジュール数を適用することや、部品形状では、断面形状は統一しているが、長さ方向は仕様に応じたモジュール数を適用して規則領域を拡大することです。規則を持たせることは、工場の現場での加工・組立・段取作業において効果的です。 変動領域とは、人間の感性のデザイン性に関わるところであり、顧客主導のカスタマイズを進める必要があり、モジュラーデザインの適用は難しい領域となります。  以上が、サーキュラーエコノミー実現のためにモジュラーデザインが果たすべき役割になります。製品は顧客が使うものであり、顧客のためでなくてはなりません。したがって、顧客が使う価値を最大化させるように、ライフサイクルを考えた製品の使い方、持続・循環可能な製品構造の追求を、今後もECM/MD研究会では追求していきたいと思います。

参考文献

・サーキュラー・エコノミー  ピーター・レイシー   日本経済新聞出版社
               ヤコブ・ルトクヴィスト
・日経ものづくり 2020年1月  ものづくりの“循環革命”  日経BP社
・モジユール化        青木昌彦、安藤晴彦   東洋経済新報社




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