製品の最適ラインアップをモジュール数,最適分割数,生産実績の3つの切り口から追求する

2020/7/30

 モジュラーデザインは、製品の多様化と部品種類の少数化を両立して、売上増大と原価低減を同時に実現することを目的としています。これらを実現するにあたり、モジュラーデザインでは市場の声や製品ベンチマーク(一流を学んで超一流になる)をもとに、設計基準データベースである製品システム構成と製品ラインアップ表を作成していきます。今回のコラムでは、製品の最適ラインアップをどのように追求すべきかを考えてみたいと思います。

 

1.製品仕様にモジュール数を適用する根拠は何か

 製品ラインアップ表とは、製品システム構成ごとの基本性能や製品サイズを決定する要素を組み合わせた表をいいます。たとえばモータでは、製品構造において、交流か直流モータかをもとに、誘導・整流子モータ、三相・単相誘導モータなどに展開していくのが製品システム構成で、それぞれの構造に対し基本性能である出力、回転数、枠番(サイズ)など定量的要素を展開した表が製品ラインアップ表です。  モジュラーデザインでは、製品ラインアップ表の作成にあたり、製品の部品種類の発生を抑制する手段であるJISのモジュール数(標準数)を使用することを推奨しています。 このモジュール数は、図1のISO/IEC/JISに登録された3種類の数値表を総称したもので、設計パラメータ、部品諸元および電気値に適用していきます。これらの数値表は、世界の知識人が、該当する製品仕様に等比数列を適用すると製品の品揃え効率(=顧客獲得数÷品揃え数)が最大化するので製品の仕様数が最少化し、等差数列を適用すると部品と部品の互換性が高まると認定した規格です。

図1:モジュール数|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図1:モジュール数

 モジュラーデザインのコンサルティングの場で、「製品仕様や基本性能にモジュール数を使うことは、大切で良いことだとは思うんですが、今一つ根拠が・・・」という声がよく聞かれます。そこで、コストを切り口としたモジュール数の製品仕様や基本性能の実践的な最適ラインアップの適用方法を考えてみたいと思います。

2.機能コストと種類コストの最適値をねらう

 製品の原価は、材料費、加工費、開発費・間接費、設備費、金型・治工具費などさまざまな費目で構成されています。これらの費目は、顧客が要求する機能・性能を満たすために発生する材料費、加工費などの「機能コスト」(変動費)と、マスカスタム化対応において個別に発生する開発費・間接費、設備費、金型・治工具費などの「種類コスト」(固定費)に分けることができます。図2は、縦軸にこれら2種類のコストをとり、横軸に製品を構成している部品種類数をとっています。
 製品開発において、最初に最適製品ラインアップを構築していくことは理想ですが、多くは顧客要求より機種が発生し、これらをもとにラインアップが構築されていきます。そして機種が増えるに従いコストダウンの必要性に迫られ、主に材料費はVE、加工費はIEの管理技術を使い機種ごとに「機能コスト」を低減していきます。  一方、「機能コスト」の低減により機種個別のコストダウンは進みますが、こうした個別のコストダウン活動により多様な機種が発生し、部品種類が生まれ、製品ラインアップ全体に掛かる「種類コスト」は逆に増加していきます。つまり、「機能コスト」と「種類コスト」の関係はトレードオフの関係にあるため、図2に示すような「機能コスト」+「種類コスト」の最適値を追求することが必要になってきます。

図2:機能コストと種類コストの最適値をねらう|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図2:機能コストと種類コストの最適値をねらう

 

3.機能優先と種類優先の最適バランスの追求

 もう少し、製品ラインアップの最適値について考えてみたいと思います。  モジュール数により決定する最適値は、トレードオフ関係にある機能コストを重視した“機能優先”と種類コストを重視した“種類優先”の考え方の両者のバランスの取れるところになります。図3は、“機能優先”と“種類優先”に対するモジュラーデザインの位置づけを表しています。それぞれのグラフは縦軸に製品仕様(モータでは出力など)、横軸に製品ラインアップをとり、ムダとは顧客要求仕様に対するギャップを表しています。 “機能優先”とは、顧客の要求どおりの製品を作り、求める機能に“ムダ”がない状態です。これを実現するには製品個々に対し、VE手法により、製品やサービスの「価値」を、それが果たすべき「機能」とそのためにかける「コスト」との関係で把握し、システム化された手順によって「価値」の向上をはかっていきます。機能優先は顧客重視ですが、個別対応による多様化で製品ラインアップの増加につながっていきます。  一方、“種類優先”とは、すべての顧客の要求に対応できる製品を1つ作ることで、共通化により、製品のバラエティを抑え、“大は小を兼ねる”の考え方で極力統一をはかることを主眼においています。種類優先は作る側の生産の効率性を考えた生産重視ですが、顧客によっては過剰仕様につながり多くのムダが発生します。  モジュラーデザインでは、これら製品の多様化と製品の少数化のトレードオフを解消するために、製品全体を眺め、開発費・間接費、製造設備、金型・治工具などのコストを抑制し、必要最低限のラインアップにとどめ準備しておき、モジュラー部品を組み合わせて多様な製品を設計することを目指しています。 既存のラインアップの多くは顧客要求より機種が発生し構築されていくので、一度“機能優先”と“種類優先”の最適バランスを検証することが必要です。

図3:最適ラインアップを追求するモジュラーデザイン|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図3:最適ラインアップを追求するモジュラーデザイン

 

4.最適ラインアップ追求の4ステップ

 次に、以上のコストの切り口より、「最適分割数」「モジュール数」「生産数大の基本性能」の3つの条件をもとに、最適ラインアップを追求する4ステップについて説明します。

図4:最適ラインアップ追求の4ステップ|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図4:最適ラインアップ追求の4ステップ


Step1:最適分割数の決定(コストから見た最適分割数の考え方)

 それでは機能優先と種類優先のトレードオフの関係に対し、「多少のムダ」を覚悟したラインアップは、コストから見てどのように考えていけば良いのでしょうか。ここで、製品に掛かる変動費(材料費・加工費など)や固定費(開発費・設備費など)に対し、製品ラインアップ数の“最適分割数”を求めることを考えていきます。 コストを最も安くするラインアップ数である最適分割数をnとすると、nにより増えるお金と減るお金があります。nが増えると増加するお金は設計・型・設備費用であり、生涯総生産台数との関係より次の(1)式で表すことができます。
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 一方、nが増えると減るお金は製品ラインアップにおける最小能力から最大能力への増分費用であり、次の(2)式で表すことができます。モータの場合、最小能力とは出力が最も低いモータの原価(材料費+加工費)であり、最大能力とは出力が最も高いモータの原価のことです。
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 (1)式と(2)式の合計金額を最小にするnは、(1)式と(2)式が等しくなるnになり、最適分割数は(3)式で求めることができます。
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図5:コストと分割数の関係|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図5:コストと分割数の関係

 たとえば、以下の条件のとき最適分割数(ラインアップ数)は次のようになります。

  [増分費用(変動費)]   [設計・型・設備費(固定費)]
  最大能力品 最小能力品      
材料費 2,500 2,000   設計費用 1,780,000
変動加工費 1,565 1,000   型・治工具費 16,500,000
合計 4,065 3,000   設備費用 15,000,000
増分費用 ①-② 1,065   合計 33,280,000
 
以上の条件を(3)式に代入すると、
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 したがって、「n=4(分割)」になります。  このように、コストから見た製品ラインアップの最適分割数は、増分費用(変動費)と設計・型・設備費(固定費)の関係より求めることができます。


Step2 モジュール数の公比の決定

 Step1により最適分割数が決定したので、次に製品仕様や基本性能の範囲におけるモジュール数の適用を考えていきます。たとえば現在の基本仕様の範囲が、Min1,040~Max1,240の製品において、この間を最適分割数「n=4」にあてはると、モジュール数ではR40が適用可能となります。このように、基本仕様の範囲をもとに適用モジュールを決定していきます。  さらに、ここで選ぶべきモジュール数R5、R10、R20、R40、R80・・・は、できるだけ公比が大きい左側のR5、R10の数列を適用することがポイントです。

図6:「n=4」の場合に仕様に対応するモジュール数R40|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図6:「n=4」の場合に仕様に対応するモジュール数R40


Step3 生産数大の基本性能の分析

 次に製品仕様や基本性能の範囲におけるモジュール数の適用を、年間の生産実績を見ながら決定していきます。モジュール数を適用することは、顧客が製品に要求する種類を減らすことになるので、顧客が要求する変化の幅とのバランスを探らなければなりません。顧客が要求する変化の幅は、過去の製品に対する顧客要求を整理することによって割り出すことができます。
 図7のグラフは、製品の過去1年間の出荷実績を縦軸に、仕様のレンジを横軸にとった結果です。この例では、現在製品ランイアップは7種類存在しています。Step2より、最適分割数“4”を目標に仕様のレンジに近いモジュール数のR40をあてはめてみます。出荷実績の多いところはニーズの多いところで極力カバーし、出荷実績の少ないところは競合他社の動向を分析して、大まかなラインアップを割り出しました。R40の適用を試みましたがレンジの間隔は近いのですが、数値の適用が難しかったため、R40とレンジの間隔が等しいR80/2の誘導数列を適用しました。
 たとえば生産量の30%を占める現状仕様の“1,100”については、R80/2のモジュール数では“1,090”だったのですが、モジュール数適用においては、一つの目安ととらえることが必要であるため、現状の顧客仕様を優先し“1,100”としました。生産数の少ないものについては、存続・廃止の方向性を顧客の動向をみながら集約することがポイントです。

図7:年間生産数と製品仕様の関係|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図7:年間生産数と製品仕様の関係


Step4 最適ラインアップの決定

 以上、Step1~Step3において、最適分割数とモジュール数、生産実績大の仕様を中心にラインアップを検討した結果、現状7機種を4機種へ統合することができました。  ここで、最適分割数はあくまでも目標値としてとらえることが必要です。そして、モジュール数と生産実績大の分析の結果、機種数が増減するケースもあると思いますが、顧客要求の多い仕様については、重要視することはいうまでもありません。

図8:3つの条件を満たす最適ラインアップ|エンジニアリングチェーンマネジメント/モジュラーデザイン研究会[ECM/MDI・PLM]

図8:3つの条件を満たす最適ラインアップ


 今回のコラムは、みなさんがモジュラーデザインの実践の場において、モジュラーデザイン手法をわかり易く適用していただくために、モジュール数を活用した製品の最適ラインアップ決定する方法について書かせていただきました。 現在研究会では、モジュラーデザインの各手法に対し、各メンバーの専門分野をもとに実践に向け具体的な使い方の研究を行っています。近々これらをテキストにまとめ、わかり易いモジュラーデザイン手法を世の中へ広めていきたいと考えています。どうぞ、ご期待ください。


参考文献




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